フリーランス保護新法とは?制定の背景、対象者・対象取引、義務の内容を解説

  • URLをコピーしました!

近年、働き方の多様化により、フリーランスで働く人が増加しています。その一方で、交渉力の低いフリーランスが発注者である企業から不当な要求を強いられたり、報酬の未払いが発生したりとトラブルも増加しています。そのようなフリーランスを保護するため、フリーランス保護新法が2024年11月に施行されます。

本記事では、フリーランスを活用する事業者向けに対象者・対象取引、義務の内容について解説していきます。

目次

フリーランス保護新法とは

フリーランス保護新法とは、2023年4月に可決され、2024年11月に施行予定の法律です。正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」で、フリーランスの保護を目的としています。

フリーランス保護新法制定の背景

フリーランス保護新法が施行される背景としては以下の事情があります。

フリーランスの増加

働き方の多様化によりフリーランス人口が増加しており、総務省の調査では250万人以上に達しています。増加するフリーランスを保護するため、事業者との法律関係を明確にする必要がありました。

不安定な取引

また、フリーランスは、企業との契約において不利な立場に置かれやすく、報酬の不払い、契約内容の不透明さ、ハラスメントなどの問題を抱えているケースが多くありました。

令和4年度フリーランス実態調査結果によれば、約37%のフリーランスが以下のような発注者からの納得できない行為を受けたとの回答をしています。最も多いのは、「報酬の支払いが遅れた・期日に支払われなかった」ことです。

出所:内閣官房新しい資本主義実現会議事務局・公正取引委員会・厚生労働省・中小企業庁「令和4年度フリーランス実態調査」

また、同じ調査で、発注者からの納得できない行為に対してどのように対応したか、という質問に対して32.6%が「そのまま受け入れた」と回答しています。さらに「交渉したが改善されないまま受け入れた」と回答した割合が25.9%と半数以上のフリーランスが発注者からの納得できない行為を受け入れています。

出所:内閣官房新しい資本主義実現会議事務局・公正取引委員会・厚生労働省・中小企業庁「令和4年度フリーランス実態調査」

このように不利な立場に置かれやすいフリーランスの労働環境を改善するため、フリーランス保護新法が制定されました。

対象者・対象取引の定義

特定受託事業者(フリーランス)

フリーランス保護新法により、保護の対象となるフリーランスは「特定受託事業者」と呼ばれます。「特定受託事業者」は以下のように定義されています。

業務委託の相手方である事業者であって、次のいずれかに該当するもの

  • 個人であって、従業員を使用しないもの
  • 法人であって、一の代表者以外に他の役員(理事、取締役、執行役、業務を執行する社員、監事若しくは監査役またはこれらに準ずる者をいう)がなく、かつ、従業員を使用しないもの

特定業務委託事業者(発注者)

一方で、フリーランスに対して業務委託を行う発注者を「特定業務委託事業者」と呼び、以下のように定義されています。

業務委託事業者であって、次のいずれかに該当するもの

  • 個人であって、従業員を使用するもの
  • 法人であって、二以上の役員があり、または従業員を使用するもの

業務委託

また、保護の対象となる「業務委託」は、事業者がその事業のために他の事業者に以下を実施する場合です。

  • 物品の製造(加工を含む)又は情報成果物の作成を委託すること
  • 役務の提供を委託すること(他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む)
スクロールできます
委託内容詳細
物品の製造・加工物品:動産のことを意味し、不動産は対象に含まれない

製造:原材料に一定の工作を加えて新たな物品を作り出すこと

加工:とは、原材料に一定の工作を加えて価値を付加すること
情報成果物の作成ソフトウェア、映像コンテンツ、デザインなどの作成「情報成果物」の例は以下。
ゲームソフト、顧客管理システムなどのプログラム
テレビ番組、映画、アニメーションなど映像や音声などから構成されるもの

設計図、各種デザイン、漫画など文字、図形、記号などから構成されるもの
役務の提供以下のようなサービスを提供すること
運送
コンサルタント
営業
演奏
セラピー
物品の修理 など

フリーランス保護新法の内容

フリーランス保護新法は、主にフリーランスに仕事を発注する事業者(委託者)に対して、以下の義務を課しています。

書面による契約の締結(フリーランス保護新法3条)

発注者からフリーランスに業務委託を行う際、業務内容、報酬、支払い時期などを明記した書面を交付する義務があります。口頭での契約は認められません。

  • 業務の内容
  • 報酬の額(具体的な額が難しい場合は、算定方法でも可)
  • ⽀払期⽇
  • 発注事業者・フリーランスの名称
  • 業務委託をした⽇
  • 給付を受領/役務提供を受ける⽇
  • 給付を受領/役務提供を受ける場所
  • (検査を行う場合)検査完了⽇
  • (現⾦以外の⽅法で⽀払う場合)報酬の⽀払⽅法に関する必要事項
  • 公正取引委員会規則が定めるその他の事項

⑩に関しては、今後の規則の制定により明らかにされます。

発注者は、明示方法を書面の交付か、電磁的方法(電子メール、SMS、SNSのメッセージ、チャットツールなど)による提供かを選択することができます。フリーランスから書面の交付を求められたときは、遅滞なく、書面を交付する必要があります。

電磁的方法はウェブページのURL、PDFファイル、チャットメッセージなどでも問題ありませんが、削除されたり、アクセスができなくなったりする場合もあるため、フリーランス・発注者双方がスクリーンショットなどで保存しておくことが望ましいです。

60日以内の報酬の支払い(フリーランス保護新法4条)

発注者はフリーランスに対して、原則として、給付を受領した日(成果物の納品日)から60日以内に報酬を支払う必要があります。

たとえば、「月末締め/翌月末払い」とする場合は最大でも60日以内での支払いができるため問題ありませんが、「月末締め/翌々月末日払い」とすると、支払いまで最大90日の期間が空くため、本条項に違反します。

給付を受領した日(成果物の納品日)の起算日は以下のように考えられます。

スクロールできます
委託内容起算日
物品の製造・加工検査の有無は関係なく、発注事業者が、物品を受け取り、自己の占有下に置いた日
情報成果物の作成情報成果物を記録した電磁的記録媒体(USBメモリ、CD-R等)を受け取り、自己の占有
下に置いた日

電気通信回線を通じて発注事業者の用いる電子計算機内に記録されたとき
役務の提供個々の役務の提供を受けた日

役務の提供に日数を要する場合には、一連の役務の提供が終了した日

不当な行為の禁止(フリーランス保護新法5条)

発注者はフリーランスに対して業務委託を行った場合、以下のような不当な行為が禁止されています。

スクロールできます
禁止行為詳細
受領拒否フリーランスに責任がないのに、委託した物品や成果物の受取を拒否すること
報酬の減額フリーランスに責任がないのに、業務委託時に定めた報酬の金額を、減額して支払うこと
返品フリーランスに責任がないのに、受け取った物品や成果物を引き取らせること
買いたたきフリーランスに委託する物品や成果物に対して、通常支払われる対価に比べ著しく低い報酬の額を定めること
購⼊・利⽤強制正当な理由がないのに、フリーランスに発注事業者が指定する物や役務を強制して購入、利用させること
不当な経済上の利益の提供要請フリーランスに金銭、役務、 その他の経済上の利益の提供を強制させることによって、フリーランスの利益を不当に害すること
不当な給付内容の変更・やり直しフリーランスに責任がないのに、費用を負担せずに、フリーランスの給付の内容を変更させたり、フリーランスの給付を受領した後に給付をやり直させたりして、フリーランスの利益を不当に害すること

募集情報の的確な表示(フリーランス保護新法12条)

委託者が、クラウドソーシング、SNS、広告などでフリーランスの募集に関する情報を掲載する際には、正確かつ最新の募集情報を表示する必要があります。以下のような虚偽の表⽰や誤解を与える表⽰は禁止されています。

スクロールできます
禁止される表示
虚偽の表示実際に業務委託を行う事業者と別の事業者名で募集情報を掲載する

実際の報酬額よりも高い額を表示する
誤解を与える表⽰一例である報酬の額が確約されているかのように表示する

一般的な職種・業種の内容と大きく異なる意味で、職種・業種の用語が使用される

また、募集を終了・内容を変更したら、速やかに募集情報の提供を終了・内容を変更する必要があります。

育児・介護等と業務の両立への配慮(フリーランス保護新法13条)

発注者は6か⽉以上の業務委託について、フリーランス側の申し出に応じて、フリーランスが育児や介護などと業務を両⽴できるよう、必要な配慮を行う必要があります。具体的には以下のような対応を指します。

  • 「子どもの看病のため、本日の勤務をテレワークに切り替えたい」という申出を認める
  • 「親の介護のため、就業時間中に一時的に離席したい」という申出を認める

フリーランスの申し出の内容が以下に該当し、やむを得ず必要な配慮を行うことができない場合には、不実施の旨を伝達し、その理由について、必要に応じ、書面の交付・電子メールの送付等により分かりやすく説明することが必要です。

  • 業務の性質・実施体制等を踏まえると難しい場合
  • 配慮を行うと業務のほとんどができない等契約目的の達成が困難な場合など

ハラスメント対策(フリーランス保護新法14条)

発注者には、ハラスメント防止のための体制整備が義務付けられます。具体的な以下の措置を講ずる必要があります。

スクロールできます
措置詳細
ハラスメントを⾏ってはならない旨の⽅針の明確化、⽅針の周知・啓発発注事業者の方針等の明確化と社内(業務委託に係る契約担当者等)へ周知・啓発すること

ハラスメント行為者に対しては厳正に対処する旨の方針を就業規則などに規定すること
相談や苦情に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備相談窓口を設置し、フリーランスへ周知すること
相談窓口担当者が相談に適切に対応できるようにすること
ハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応事案についての事実関係を迅速かつ正確に把握すること

事実関係の確認ができた場合、速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に実施すること

事実関係の確認ができた場合、行為者に対する措置を適正に実施すること

ハラスメントに関する方針の再周知・啓発などの再発防止に向けた措置を実施すること

中途解除等の事前予告・理由開示(フリーランス保護新法16条)

委託者は、6か⽉以上の業務委託を中途解除したり、更新しないこととしたりする場合は、原則として30⽇前までに予告する必要があります。また、予告の⽇から解除⽇までにフリーランスから理由の開⽰の請求があった場合には理由の開⽰を行う必要があります。

まとめ

以上、フリーランス保護新法の制定の背景、対象者・対象取引、義務の内容を解説してまいりました。

今後もフリーランスを活用する発注者は、上記の義務内容を踏まえて、募集情報、契約内容、社内の体制を見直していくことが必要となります。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コンサルティングファームにおいて様々な業界で経験を積み、人材領域で業界の知識を活かしたく、本サイトを運営しております。すべての人が適職で活躍できるような社会を実現するため情報提供をして参ります。

コメント

コメントする

目次