専ら派遣が禁止されている理由、グループ企業への派遣は認められるのか

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「専ら派遣」という言葉、耳にしたことはありますか? これは、特定の企業に長期間派遣され続ける働き方を指し、実は法律で禁止されています。なぜ禁止されているのか、そしてグループ企業への派遣は認められるのか、疑問に思ったことはありませんか?

この記事では、「専ら派遣」の禁止理由とその背景にある法律、そしてグループ企業への派遣に関するルールについて詳しく解説します。

目次

労働者派遣とは

労働者派遣とは、人材派遣会社に雇用されている人材(派遣労働者)を派遣契約を締結した企業(派遣先企業)に派遣することです。派遣労働者は派遣先企業の指揮命令に従って働きます。

“専ら派遣”の禁止

“専ら派遣”とは

“専ら派遣”とは、「専ら労働者派遣の役務を特定の者に提供することを目的として行われる」労働者派遣のことを指します。つまり、特定の企業にだけ労働者を派遣することを言います。

下図の場合では、企業Aだけに労働者を派遣し、企業Bの依頼は断り、企業Cなどには営業努力を行わない場合を指します。

“専ら派遣”と認められる判断基準は以下の通りです。

  1. 定款等の当該事業目的が専ら派遣となっている。
  2. 派遣先の確保のための努力が客観的に認められない。
  3. 他の事業所からの労働者派遣の依頼を、正当な理由なく全て拒否している。

2.の要件について、不特定多数の派遣先を確保するために随時、宣伝・広告を行っている場合、結果的に特定の企業に派遣している場合であっても、違法とはなりません

“専ら派遣”の禁止

“専ら派遣”は、労働者派遣法7条第1項第1号により禁止されています。

当該事業が専ら労働者派遣の役務を特定の者に提供することを目的として行われるもの(雇用の機会の確保が特に困難であると認められる労働者の雇用の継続等を図るために必要であると認められる場合として厚生労働省令で定める場合において行われるものを除く。)でないこと。

労働者派遣法7条第1項第1号

人材派遣会社にて”専ら派遣”が認められる場合、厚生労働大臣の勧告の対象となります。

厚生労働大臣は、労働力需給の適正な調整を図るため、労働者派遣事業が専ら労働者派遣の役務を特定の者に提供することを目的として行われている場合(第七条第一項第一号の厚生労働省令で定める場合を除く。)において必要があると認めるときは、当該派遣元事業主に対し、当該労働者派遣事業の目的及び内容を変更するように勧告することができる。

労働者派遣法48条第2項

厚生労働大臣の勧告後、是正が見られない場合は、許可の取消し、業務停止命令の対象となります。

例外

派遣労働者の3/10以上が、他の企業を60歳以上の定年により退職した後雇い入れた60歳以上の者である場合、勧告の対象外となります。

法第七条第一項第一号の厚生労働省令で定める場合は、当該事業を行う派遣元事業主が雇用する派遣労働者のうち、十分の三以上の者が六十歳以上の者(他の事業主の事業所を六十歳以上の定年により退職した後雇い入れた者に限る。)である場合とする。

労働者派遣法施行規則第1条の3

雇い入れたもの”専ら派遣”が禁止されている理由は

労働者派遣の目的に抵触する

労働者派遣の目的は、労働力需給調整システムの役割を果たすことです。つまり、労働力を必要とする企業(需要)と働きたいと考える労働者(供給)の差を解消することです。”専ら派遣”のように特定の企業だけに労働者を派遣することは、本来の労働力需給調整システムの役割を果たしているとは言えないため、認められません。

労働者の雇用機会を奪う

「専ら派遣」が横行すると、企業は派遣労働者を安価な労働力として利用し、正社員の雇用を抑制する可能性があります。これにより、労働者の雇用機会が奪われ、労働市場全体の安定性が損なわれる恐れがあります。また、派遣先企業は安い労働力として派遣労働者を活用したいため、派遣労働者が直接雇用される可能性も低くなります

グループ内派遣は認められるのか

子会社である人材派遣会社が、その親会社などグループ企業を中心に派遣を行う場合も”専ら派遣”に該当するのか?

人材派遣会社が、グループ企業へ労働者を派遣する場合は、グループ企業への派遣割合に係る総労働時間が8割以下になるようにしなければならない。

グループ内派遣の規制

人材派遣会社のグループ企業への派遣については、グループ企業への派遣割合に係る総労働時間を全体の8割以下となるようにしなければならないと規制されています。

派遣元事業主は、当該派遣元事業主の経営を実質的に支配することが可能となる関係にある者その他の当該派遣元事業主と特殊の関係のある者として厚生労働省令で定める者(以下この条において「関係派遣先」という。)に労働者派遣をするときは、関係派遣先への派遣割合(一の事業年度における当該派遣元事業主が雇用する派遣労働者の関係派遣先に係る派遣就業(労働者派遣に係る派遣労働者の就業をいう。以下同じ。)に係る総労働時間を、その事業年度における当該派遣元事業主が雇用する派遣労働者のすべての派遣就業に係る総労働時間で除して得た割合として厚生労働省令で定めるところにより算定した割合をいう。)が百分の八十以下となるようにしなければならない。

労働者派遣法23条の2

計算方法としては、人材派遣会社の全派遣労働者の年間の総労働時間を分母として、全派遣労働者のグループ企業での年間総労働時間を分子とします。この際、60歳以上の定年退職者のグループ企業での総労働時間は対象外とされます。

人材派遣会社は、毎年度グループ企業への派遣割合を厚生労働大臣に報告することを義務付けられています(労働者派遣法23条第3項)。

グループ企業の範囲

この8割規制が適用される「グループ企業」の範囲は、厚労省令で次のように規定されています。

  • 派遣元事業主が連結子会社の場合(連結決算を導入している場合)
    • 派遣元事業主の親会社
    • 派遣元事業主の親会社の子会社
      ※親子関係は連結決算の範囲で判断
  • 派遣元事業主が連結子会社でない場合(連結決算を導入していない場合)
    • 派遣元事業主の親会社等
    • 派遣元事業主の親会社の子会社等
      ※親子関係は外形基準で判断(議決権の過半数を所有、資本金の過半を出資など)

グループ内派遣の実態

令和4年度の派遣労働に関する実態調査では、労働者派遣を受け入れている会社の中で、人材派遣会社との関係について以下の通り、データが集計されています。

最も多いのは85.7%で独立会社ですが、親会社・子会社・関連会社が合計して8.9%程度で、実態としてグループ内派遣が行われていることが分かります。

令和4年度 派遣労働に関する実態調査

グループ内派遣を実施している人材派遣会社は、グループ内派遣の総労働時間が8割以下になるように注意が必要となります。

まとめ

“専ら派遣”の禁止理由とグループ企業への派遣に関するルールについて解説しました。

これらはいずれも違反すると業務停止・許可の取消しとなる可能性もあります。事業停止となれば、派遣労働者も突然失職するリスクがあります。人材派遣会社は、これらの規制に抵触しないように事業を運営する必要があります。

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この記事を書いた人

コンサルティングファームにおいて様々な業界で経験を積み、人材領域で業界の知識を活かしたく、本サイトを運営しております。すべての人が適職で活躍できるような社会を実現するため情報提供をして参ります。

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