「異業種への転職はハードルが高い」ほとんどの人がそう考えているのではないでしょうか。
新卒で入社した会社で10年近く勤務し、別の業界・業種に挑戦してみたいと考える人は少なくないと思います。しかし、一つの業界での経験・スキルしかないのでは転職は難しいと考える人が多いと思います。
しかし、“ポータブルスキル“を磨くことによって、異業界・異業種への転職も可能になります。ポータブルスキルとは、業界・業種が変わっても通用する持ち運びができる職務遂行上のスキルを指します。
本記事では、ポータブルスキルとは何か、ポータブルスキルの磨き方、ポータブルスキルで転職を成功させる方法について解説します。
未経験採用の求人は増えている
“ポータブルスキル”について説明する前に、近年の求人の傾向について解説します。
リクルートエージェントの求人分析によれば、2018年度から2022年度にかけて未経験求人が3.2倍に増加しています。
この増加の背景として、人材不足が深刻な業界や職種において、未経験者を活用して人材を補完する動きがあります。特に業界では、IT 通信・インターネット、建設・不動産、外食・店舗型サービスで大きく増加しており、職種では、機械・電子・化学エンジニア、接客・販売・店長、コールセンターで大きく増加しています。
企業側も未経験人材を積極的に採用しようとする動きがあり、異業界・異業種に挑戦する機会は増えてきていることを示しています。
一方で、企業側もどんな人材でも良いというわけではなく、未経験でもより優秀な人材を採用します。そこで他の候補者と差をつけることができるスキルが”ポータブルスキル”なのです。
ポータブルスキルとは
“ポータブルスキル”とは厚生労働省の定義によれば、職種の専門性以外に、業種や職種が変わっても持ち運びができる職務遂行上のスキルのことです。「持ち運びができる」とは、どのような環境においても活用することができるということを指します。
ポータブルスキルの要素
厚生労働省の定義に基づくと、ポータブルスキルの要素は”仕事のし方”と”人との関わり方”に分類され、さらに9つの要素に細分化されます。
仕事のし方 | 現状の把握 | 取り組むべき課題やテーマを設定するために行う情報収集やその分析のし方 |
---|---|---|
課題の設定 | 事業、商品、組織、仕事の進め方などの取り組むべき課題の設定のし方 | |
計画の立案 | 担当業務や課題を遂行するための具体的な計画の立て方 | |
課題の遂行 | スケジュール管理や各種調整、業務を進めるうえでの障害の排除や高いプレッシャーの乗り越え方 | |
状況への対応 | 予期せぬ状況への対応や責任の取り方 | |
人との関わり方 | 社内対応 | 経営層・上司・関係部署に対する納得感の高いコミュニケーションや支持の獲得のし方 |
社外対応 | 顧客・社外パートナー等に対する納得感の高いコミュニケーションや利害調整・合意形成のし方 | |
上司対応 | 上司への報告や課題に対する改善に関する意見の述べ方 | |
部下マネジメント | メンバーの動機付けや育成、持ち味を活かした業務の割り当てのし方 |
仕事のし方
“仕事のし方”はいわゆる問題解決力です。問題解決と聞くとすごく高度なことのように聞こえますが、経営の意思決定から現場での業務まで、ありとあらゆる領域で問題解決は行われています。
問題解決力を身につけることで、どのような会社・部署・業務においても競争力の源泉となり、活躍することができます。
現状の把握
“現状の把握”とは、取り組むべき課題やテーマを設定するために行う情報収集やその分析のし方を指します。経営レベル・現場レベルのそれぞれの具体例を見ると以下のようなものが挙げられます。
- 経営レベル:企業の戦略を立てるため、市場調査や競合分析を行う
- 現場レベル:作業が滞っている原因を見つけるため、アルバイトに聞き取りを行う
具体的なスキルとしては以下のようなものです。
- 公開情報、文献などから必要な情報を収集するリサーチ能力
- 関係者へのインタビューなどを通じて情報収集するヒアリング能力
- 入手した情報を整理・分析を行い、新たな示唆を導き出す能力
課題の設定
“課題の設定”とは、事業、商品、組織、仕事の進め方などの取り組むべき課題の設定のし方を指します。経営レベル・現場レベルのそれぞれの具体例を見ると以下のようなものが挙げられます。
- 経営レベル:市場や競合の脅威に対して課題を発見し、解決するための目標を設定する
- 現場レベル:作業を円滑に進めるため、解決すべき課題を特定する
具体的なスキルとしては以下のようなものです。
- 収集した情報に基づき、解くべき問題を設定する論点思考
- 論点に対して仮の答えを設定する仮説思考
- 問題に対して真の原因を特定する論理的思考力
計画の立案
“計画の立案”とは、担当業務や課題を遂行するための具体的な計画の立て方を指します。経営レベル・現場レベルのそれぞれの具体例を見ると以下のようなものが挙げられます。
- 経営レベル:企業の課題に対して解決策を実現するため、実行する部署・担当者、予算、期日を具体的に決定し、指示を行う
- 現場レベル:業務の課題に対してどのように解決すべきか、具体的な作業レベルまで明確にし、担当者、期日を決めて指示を行う
具体的なスキルとしては以下のようなものです。
- 品質目標、予算目標、期日目標を設定する能力
- 課題に対する解決策を実行するために必要なタスクを分解する能力
- 設定した目標、考えられるリスク、リソースを踏まえ、タスクの優先順位をつける能力
課題の遂行
“課題の遂行”とは、スケジュール管理や各種調整、業務を進めるうえでの障害の排除や高いプレッシャーの乗り越え方を指します。経営レベル・現場レベルのそれぞれの具体例を見ると以下のようなものが挙げられます。
- 経営レベル:各部署に指示した施策が計画通り進められているかモニタリングを行い、必要に応じて予算・人員の追加を行う
- 現場レベル:担当者に依頼した作業が計画通り進められているか確認を行い、困っていることがあればアドバイスを行う
具体的なスキルとしては以下のようなものです。
- 計画の進捗を管理するプロジェクトマネジメント能力
- メンバーに積極的に作業を遂行させるリーダーシップ
- 計画遅延などのリスクをあらかじめ想定し、計画を見直す能力
状況への対応
“状況への対応”とは、予期せぬ状況への対応や責任の取り方を指します。経営レベル・現場レベルのそれぞれの具体例を見ると以下のようなものが挙げられます。
- 経営レベル:法律の改正により、予定していた施策を実行できなくなった場合、撤退すべきか、他の手段を用いてでも実現すべきかを判断し、現実的な計画を立てる
- 現場レベル:担当者が病気になってしまい作業の継続が困難になった場合、誰が代わりに作業を行うか決定すると同時に必要な引継ぎを行う
具体的なスキルとしては以下のようなものです。
- 計画の障害となる事象を早期に察知する能力
- 現状を踏まえ、計画の中断、見直しを判断する能力
- 計画の中断や見直しについて関係者に理解・納得させる交渉力
人との関わり方
“人との関わり方”とは、端的に言えばコミュニケーション能力です。ここでいうコミュニケーション能力とは、口頭でのやり取りに限らず、資料、メールで何かを伝えることも含まれます。
コミュニケーションの相手は、社内(経営層・上司・関係部署など)だけでなく社外(顧客・社外パートナー等)も含まれます。立場によっては部下を育成するためのコミュニケーションも必要となります。
コミュニケーションが不要な仕事はないので、どのような業界・業種でも競争力の源泉となるスキルとなります。
社内対応
“社内対応”とは、経営層・上司・関係部署に対する納得感の高いコミュニケーションや支持の獲得のし方を指します。
例えば、上司に対しては自身の業務内容について適切なタイミングで、適切な内容を報告する必要があります。経営層に対しては、取り組みたい内容をプレゼンテーションし、予算やリソースを確保する必要があります。それぞれの場面に応じて適切なコミュニケーションの方法を実行することが期待されます。
具体的なスキルとしては以下のようなものです。
- 適切なタイミング・頻度で報告・連絡・相談を行う力
- 相手を納得させる文章や資料を作成する表現力
- 伝えたい内容を正確に伝えるプレゼンテーション能力
社外対応
“社外対応”とは、顧客・社外パートナー等に対する納得感の高いコミュニケーションや利害調整・合意形成のし方を指します。社外対応では、社内対応よりも注意深くコミュニケーションを進めていくことが求められます。
例えば、顧客に対しては顧客のニーズが発生するタイミングで適時に情報提供を行うことが望ましいです。言葉遣い、表現なども社内対応よりもさらに慎重に行う必要があります。また、社外のベンダーに対して何かを発注する場合は、双方納得のいく契約内容で合意形成を行うことが求められます。さらにベンダーが業務遂行を怠ることのないように適宜情報提供を求めることが望ましいです。
具体的なスキルとしては以下のようなものです。
- 適切なタイミング・頻度で情報共有を行う・求める能力
- 契約内容・条件に関して相手を納得させる交渉力
- 顧客・社外パートナー等が快いと感じる言葉遣い・表現
上司対応
“上司対応”とは、上司への報告や課題に対する改善に関する意見の述べ方を指します。
報告と一口に言っても、様々な報告の仕方があります。口頭での報告、メールでの報告、プレゼンテーション資料を使用した報告など。また、報告のタイミングも様々です。日次報告、週次報告、特にタイミングを決めないなど。上司がどのような報告の方法、タイミングが望ましいか、あらかじめ合意しておくことが期待されます。
また、報告の中で出現した課題に対してどのような対策を行うか自分の意見を持つことが大切です。報告においては現在の状況だけでなく、顕在化している課題・潜在的な課題とその対応策を説明し、上司に意見をもらうことが期待されます。そして、次回の報告では上司のフィードバックを適切に反映していることが望ましいです。
具体的なスキルとしては以下のようなものです。
- 上司の期待する報告方法・タイミング・レベル感について合意形成する力
- 顕在化している課題・潜在的な課題を明確にし、解決策の仮説を説明する力
- 上司のフィードバックを理解する力
部下マネジメント
“部下マネジメント”とは、メンバーの動機付けや育成、持ち味を活かした業務の割り当てのし方を指します。部下がいる場合だけでなく、チームで仕事を行う場合はチームメンバーに対しても発揮することが期待されます。
人にはそれぞれ得意な領域・苦手な領域があります。また、様々な事情で精神的な浮き沈みも発生します。そのような個人の状況を理解した上で、適切な役割分担を行う必要があります。また、モチベーションを維持するため、あえて難しい業務に挑戦させるといった方法もあります。
そして部下の状況は適切なタイミングで確認を行います。人によってはあまりこまめに状況を確認されたくないという人もいたりします。逆に放置されると不安を感じる人もいます。そのため、その人の性格に合わせたコミュニケーションの取り方が期待されます。
具体的なスキルとしては以下のようなものです。
- 個人の得意領域・パーソナリティを理解する力
- 個人のやる気やモチベーションを高める力
- 個人に合わせた育成方法を考え、実行する力
ポータブルスキルの磨き方
ポータブルスキルを磨くためには、現状の自分のポータブルスキルを把握する必要があります。そして、ポータブルスキルを磨く方法にはOJT(On-the-Job Training)とOff-JT(Off-the-Job Training)があります。以下、順に説明します。
現状を把握する
まず、自身のポータブルスキルについて何が得意か、何が不得意かを把握します。
厚生労働省が提供する「ポータブルスキル見える化ツール」を活用することで、自身のポータブルスキルの現状と適職が示されます。
https://shigoto.mhlw.go.jp/User/VocationalAbilityDiagnosticTool/Step1
STEP.1では、自分が得意だと考えるスキルに29点の持ち点を割り振ります。
STEP.2では、各スキルについて日々の業務の中での到達度を選択します。
STEP.3では、診断結果が共有され、それぞれのスキルと活かせる職務と職位が表示されます。
このように現状のスキルを把握した上で、自身が不足しているスキルに関して伸ばしていくことを意識します。
OJTで学ぶ
ポータブルスキルは、基本的にはOJT(On-the-Job Training)によって伸ばすことが効率的です。OJTとは、実際の業務を通してスキルを習得する方法です。
日々の業務の中で上記のポータブルスキルを意識し、実践を行います。ポータブルスキルは単純作業よりも難易度が高い思考が必要な業務を通じて磨かれるので、そのような業務に積極的に関与することを心がけましょう。
その上で、優秀な上司や同僚をベンチマークとして、彼ら・彼女らの仕事ぶりを観察しながら、どのような取組みが必要かを学びます。また、そのような優秀な人物に自身のフィードバックを定期的に求めることをしましょう。第三者目線で、自分ができていない点を評価してもらい、改善策を考えることも大切です。
OJTで第三者からのフィードバックをもらいながら、実践し続けることで、自身の成長を確認しながらポータブルスキルを伸ばすことができます。
Off-JTで学ぶ
Off-JT(Off-the-Job Training)でポータブルスキルについて体系的に学習することも有効な手段です。Off-JTとは、業務から離れた環境で、研修や書籍などを用いてスキルを習得する方法です。
Off-JTは研修を受講する方法もありますが、費用もかかるため、まずは手軽に学べる書籍を活用することをおすすめします。以下、ポータブルスキルを学習できるおすすめの書籍をご紹介します。
問題解決力を磨くためには、まずは真に解決すべき問題”イシュー”を意識することが大切です。日常生活ではあまりこの”イシュー”を意識することはありませんが、仕事においては「本質的な選択肢である」「深い仮説がある」「答えを出せる」イシューを導くことで、効率的かつ効果的な問題解決を実現できます。
本書では、イシューの見極め方、分析方法、解決方法、表現方法がまとめられており、問題解決を挑戦するための第一歩として有用な書籍です。
問題解決に期待される要素として、思考力、フレームワーク、プロセスがあります。思考力は、論点思考、仮説思考、論理的思考力など物事の捉え方を指します。フレームワークは、”MECE”、”ロジックツリー”といった整理のための枠組みです。プロセスは、思考力やフレームワークを実際のビジネスの現場でどのような手順で活用するかを指します。
本書では、思考力、フレームワーク、プロセスに関して一貫して学ぶことができます。問題解決において重要なのは我流ではなく、一般に認められた方法で実践することです。本書のプロセスを参考にしながら、自身の業務に適用してみることをおすすめします。
“人との関わり方”において最も難しいのは”部下マネジメント”です。部下が何を考えているか分からないというのが多くの上司の方の悩みです。そこで重要なのが上司と部下の1対1での対話です。対話を行いながら業務レベル、個人レベル。組織レベルでのすり合わせを行うことで、部下のパフォーマンスを最大化することができます。
本書では、1on1での対話において「何を」「どう」対話し、すり合わせをすればよいか、「対話例」や「質問例」が多く含まれています。本書を読み進めることで対話のパターンに慣れ、実際の現場でも部下と自然な対話を実行できるようになります。
ポータブルスキルで転職を成功させる方法
ポータブルスキルを磨くことによって、現職でのキャリアアップはもちろんですが、異業種へのキャリアチェンジも実現することができます。
自己分析
前項で紹介した「ポータブルスキル見える化ツール」を活用しながら、ポータブルスキルの中で特に優れているスキルは何かを明確にします。書類選考や面接においても自身の強みとなるポータブルスキルを説明できるように、裏付けとなるエピソード、実績を整理しておきます。
キャリア目標の明確化
次に、自身がどのような業界・業種で、将来的にはどのようなポジションを実現したいか、キャリア目標を明確にします。キャリア目標は可能な限り具体的にしましょう。例えば、以下のように目標を立てます。
- 業界:自動車メーカー
- 職種:商品企画
- ポジション:10年後に部長
- 取り組みたいこと:リーズナブルで多くの人が利用できるEVの開発
求人情報の探索
次にキャリア目標に基づき、どのようなポータブルスキルが活かせるかを確認します。
もちろん、活かせないポータブルスキルはないのですが、業界・職種において活躍している人材が強みとするポータブルスキルがあります。
インターネットで調べるのも良いですが、業界に精通する転職エージェントに相談するのが効果的です。転職エージェントは基本的には無料で相談でき、求人も紹介してくれます。
ポータブルスキルのアピール
書類選考や面接では、ポータブルスキルを具体的にアピールすることが大切です。
自身が身につけたポータブルスキルを具体的なエピソードとともに紹介すると同時に、転職を希望する業界・業種においてどのように活用できるかを説明します。業界・業種への理解を示すため、以下の質問に回答できることが望ましいです。
- どのような業務で、
- どのような課題に対して、
- どのようなポータブルスキルを活用し、
- 何を実践し、
- どのような結果を期待できるか
書類選考や面接では、上記の質問に回答できるように実績やエピソードの整理を行いましょう。
まとめ
以上、ポータブルスキルの概要、磨き方、転職を成功させる方法を解説してきました。
ポータブルスキルを極めることで、究極的にはどのような業界・業種でも活躍することができます。未経験だからといって、最初から異業種への転職をあきらめる必要はありません。自身強みとするポータブルスキルを伸ばし、弱みを補っていくことで選択肢の幅が広がります。
異業種への転職を検討されている方は、本記事も参考にポータブルスキルを磨いていってはいかがでしょうか。
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