どのようなビジネスの現場においても複雑な問題を分析し、最適な解決策を導き出すことが必要です。そのため、正しく考える方法を身につけることが求められます。ビジネスの世界には正解はありませんが、”better”な解を導くためには問題を正しく捉えて、解決策を根拠に基づき説明できなければいけません。解決策それ自体も大事ですが、どのようにそれを考えたか思考のプロセスも重要です。思考のプロセスが明確でなければ、他人から見てそれが正しいかどうか判断できないからです。
以下では、問題解決のプロセスに沿って、それぞれの考え方を紹介します。
解かるとは分けること
物事を理解するには、最初に”分ける”ことが大切です。大きな問題をぼんやりと眺めていても本質に近づくことは難しいです。問題を細分化することで、注目すべき点が明確になり、問題に対してアプローチしやすくなります。
たとえば、喫茶店の売上が前月よりも下がっているという問題があったとします。売上が下がっている原因は次のように分解できます。
- 来客数が減っている
- 客単価が減っている
仮に来客数が原因だとすると、どのような客層が減っているかを分析します。その切り口としては、性別、年齢、属性(会社員、学生…)などがあります。たとえば、年齢層で3つの区分で分けてみます。
- 若年層(10~30歳代)
- 中年層(40~60歳代)
- 高年齢者層(70歳代以上)
仮に若年層において来客数の減少が最も大きいとします。さらに若年層の顧客の来客時間で分けてみます。
- 7:00~10:00
- 11:00~14:00(ランチタイム)
- 15:00~18:00
- 19:00~22:00
仮に11:00~14:00において来客数の減少が最も大きかった場合、次のような原因を考えることができます。
- 若者の舌に合うようなランチメニューがない
- 近くに若者向けのおいしいレストランが開店した
- ランチの提供スピードが遅く、待っている時間がない
このように元々の「喫茶店の売上が前月よりも下がっている」という問題から分解を繰り返すことによって、徐々に問題の本質に近づくことができます。ただし、何でも分ければ良いというわけではなく、適切な切り口で分けることが大切です。その際は後述するフレームワークを活用するのが有効です。
フレームワークを活用する
物事を分けて考えるためには、分けるための切り口が重要になります。オリジナルの切り口を考えても良いのですが、そのような切り口は大抵、他者には伝わりづらいです。そのため、先人たちが考え、社会に広く普及しているフレームワークを活用することがおすすめです。
フレームワークを使うことで、一から切り口を考える手間が省ける。また、漏れなく重複なく整理することができます。たとえば、有用なフレームワークとして以下のようなものがあります。逆に言うと、これ以外のフレームワークは使用頻度が低いため、あまり覚えておく必要はありません。
- As is / To be:現状とあるべき姿の比較
- 5W1H:When(いつ)、Where(どこで)、Who(誰が)、What(何を)、Why(なぜ)、How(どのように)の6つの要素から情報を整理
- 3C:Customer(顧客)、Competitor(競合)、Company(自社)の3つの要素から市場環境を分析
- 4P:Product(製品)、Price(価格)、Place(流通)、Promotion(プロモーション)の4つの要素からマーケティング戦略を検討
- SWOT:Strengths(強み)、Weaknesses(弱み)、Opportunities(機会)、Threats(脅威)の4つの要素から内部・外部環境を分析
- PEST:Politics(政治)、Economy(経済)、Society(社会)、Technology(技術)の4つの要素から外部環境を分析
- AIDMA:Attention(注意)、Interest(興味)、Desire(欲求)、Memory(記憶)、Action(行動)の5つの要素から消費者行動を分析
- AISAS:Attention(注意)、Interest(興味)、Search(検索)、Action(行動)、Share(共有)の5つの要素からECなどにおける消費者行動を分析
フレームワークを活用する他、二項対立で考えることも有効です。二項対立とは、互いに相反する、または対照的な二つの概念のことです。
- あり・なし
- 可・不可
- 完了・未了
- 男性・女性
- 日本人・外国人
- 労働者・非労働者
- 社内・社外
- 収益・費用
- 固定費・変動費
- イニシャルコスト・ランニングコスト
- ハード・ソフト
- 内製・外注
二項対立は限りなく、漏れなく、重複なく整理できる枠組みで、これを組み合わせることによって、納得感のある分類を行うことができます。
オリジナルのフレームワークを作成する際は、漏れなく重複なく整理できることを意識します。そのため、様々なケースをフレームワークに当てはめて、本当に使えるフレームワークなのか検証しましょう。注意点としては、あまり要素が多いと分解が難しくなり、使用しづらくなります。一般的なフレームワークと同様に要素は5つ以内を目安に作成することを意識しましょう。
論点を定義する
問題をある程度のレベルまで細分化できれば、論点を定義します。論点とは、「解くべき問題」のことで、課題やイシューといった言葉も近い意味で用いられます。論点は疑問文の形式で表現されます。
たとえば、「喫茶店の売上が前月よりも下がっている」という問題に対して論点を設定します。
目的を設定する
まず、問題に対して最終的な目的を設定します。たとえば、上記のケースでは「売上を前月と同水準までに回復する」と設定します。
問題の原因を特定する
問題を様々な切り口で分けて、問題の原因を特定します。このステップが前項までで紹介した、”分ける”という段階です。上記のケースでは、年齢・男女別に顧客層を分けたり、時間帯ごとに分解したりすることで原因を特定します。
真に解くべき問題(論点)を設定する
原因を分析すると、複数の原因が出てくることがあります。しかし、すべての原因に対してアプローチするのではありません。原因の中でも、最も影響が大きい本質的な原因を論点として設定します。
たとえば、以下のように論点を立てます。
- 若年層の来客数が少ないのはなぜか?
- ランチメニューの注文数が少ないのはなぜか?
- ビジネスマンの客単価が低いのはなぜか?
論点を定義することで、限られた問題に対して時間やリソースを集中され、効率的に解決することができます。逆に論点を定義しなければ、検討の幅が一気に広がり、総花的な解決策しか考えることができません。
論点を立てるには、問題を分解することが第一歩となりますが、本質的な問題を特定するには知識や経験が求められます。そのため、最初の段階は幅広く論点を考えた上で、リーダーや先輩と議論しながら、論点を絞り込むことを意識しましょう。
常に仮説を持つ
論点を設定したら、論点に対応する仮説を持つことが大切です。仮説とは論点に対する「仮の答え」です。自分が持つ知識や経験に基づき、合理的に最も正しいと思われる答えを導き出します。たとえば、以下の論点に対して仮説をいくつか立ててみます。
- 論点:若年層の来客数が少ないのはなぜか
- 仮説1:若年層にはランチメニューの金額が高い
- 仮説2:若年層が入店しにくい雰囲気がある
- 仮説3:キャッシュレス決済の手段が少ない
仮説が明確であれば、この仮説が正しいか、間違っているかを検証すれば良く、効率的に情報収集を行うことができます。逆に仮説がなければ、無数にある選択肢の中から解決策を探さなければいけません。
論点と同様に仮説を立てることも知識や経験が必要になります。まずは、自分なりの仮説を常に持つことが大切です。その仮説をリーダーや先輩と議論しながら、仮説の精度を高めることを繰り返すことで、スジの良い仮説を立てる力が徐々に身につきます。
仮説を検証する方法は帰納法・演繹法
仮説を検証するための方法は帰納法または演繹法を用います。
帰納法
帰納法とは、個別具体的な事例や観察から出発し、一般的な法則や原理を導き出す方法です。簡単に言えば、たくさんのデータから共通点を見出し、一つの法則を見出すことです。たとえば、多くの黒いカラスを観察して「カラスは黒い」という結論を導くことです。
前項で立てた仮説1を帰納法で検証すると以下のようになります。
- 仮説1:若年層にはランチメニューの金額が高い
- 検証方法:近隣の若年層に人気の競合店のランチメニューの金額の価格帯を調査し、自店と比較する
- 検証結果:競合店10店舗全てが自店よりも低い価格でランチメニューを提供している。よって仮説は正しい。
帰納法における注意点としては、収集したデータが必ずしも網羅しているわけではなく、結論が常に正しいとは限らないということです。たとえば上記の例でも、近隣の店舗をさらに調査すると、より価格帯の低い店舗が見つかるかもしれません。
演繹法
演繹法とは、一般的な法則や原理から、具体的な事例について結論を導き出す方法です。たとえば、「人間は死ぬ」という原理に対して、「ソクラテスは人間である」という事実を当てはめ、「ソクラテスは死ぬ」という結論を導き出します。演繹法は帰納法と異なり、法則や原理が正しければ結論は決して覆らないため、証明力が高いです。
前項で立てた仮説1を帰納法で検証すると以下のようになります。
- 仮説1:若年層にはランチメニューの金額が高い
- 検証方法:「若年層がランチで高いと思う金額は1,000円」という一般的な統計調査に対して、自店のランチメニューの金額を当てはめる
- 検証結果:自店のランチメニューは1,300円なので、若年層にとっては高い。よって仮説は正しい。
演繹法の注意点としては、前提となる法則や原理が誤っていると、結論も誤りであるということです。自然科学の法則や法律などであれば、誤っていることは少ないですが、ビジネスの世界においては一般的に当てはまる法則や原理がそれほど多くはありません。上記で挙げた「若年層がランチで高いと思う金額は1,000円」も一般的な傾向を示すものであり、普遍的な法則とは言えません。このような弱点もあるため、ビジネスでは帰納法が用いられることが多いです。
仮説の検証方法は、基本的には帰納法・演繹法の2通りがあり、状況に応じて使い分けることが大切です。また、検証結果についても帰納法・演繹法いずれの方法で検証しているかを明確に表現するようにしましょう。
打ち手はWhat⇒Howにより検討する
課題に関する仮説が検証されれば、それに対して打ち手を検討していくことになります。
課題に対しては、具体的な解決策を考える前に方向性を提示します。まずは何をするか(What)を明確にし、その後どのようにするか(How)を決めましょう。方向性が決まっていないと、具体的な取り組みのアイデア出しを行っても発散してしまいます。解決策の方向性は、企業の戦略、計画といった方針やコスト・時間・規制といったボトルネック等の具体的な状況を踏まえ策定します。
たとえば、上記で検討した課題に対しては、以下のように解決方針を検討することができます。ランチメニューの原価などを考慮しながら、金額を下げられるかどうかを判断していきます。
- 課題:若年層にはランチメニューの金額が高い
- 解決方針1:ランチメニューの金額を下げる
- 解決方針2:ランチメニューの金額を下げない
解決策の方向性が定まれば、その方向にしたがって、具体的な手段(How)を考えていきます。1つでは却下される可能性もあるため、有効なアイデアを複数準備することが大切です。
- 解決方針2:ランチメニューの金額を下げない
- 解決手段1:ランチのボリュームを増やし、コストパフォーマンスの良さを演出する
- 解決手段2:ランチに原価の低いドリンクをセットにすることで、トータルの支払いを抑えるようにする
- 解決手段3:期間限定のクーポンを配り、通常よりも安くランチを楽しんでもらい、美味しさを伝える
アイデアを出す際は、ブレインストーミングが有効です。ブレインストーミングとは他人のアイデアを批判しないというルールに基づき、実施されるディスカッションです。様々な視点でのアイデアを幅広く出すことによって、新たな発想や解決策を生み出すことができます。
アイデアは効果と実現可能性により評価・優先順位付けする
前項で出したアイデアの中から実行する手段を決めなければいけません。その際は、効果と実現可能性により評価することが効果的です。
効果には、目標達成への貢献度、影響範囲、持続性など、そのアイデアを実施することによるビジネスインパクトを考慮します。たとえば、売上がどの程度上がるか、コストがどの程度抑えられるか、何人の顧客にリーチできるか、などにより評価します。
実現可能性は、資源、技術、組織体制、外部環境などに基づいて、そのアイデアがどれくらい実施しやすいかを評価します。たとえば、お金や人員は十分か、法規制により禁止されていないか、競合が先に市場を独占していないか、などにより評価します。
たとえば、前項の解決手段のアイデアを簡易的に評価すると以下のようになります。もちろん、厳密には各種データを用いて定量的に評価する必要があります。
- 解決手段1:ランチのボリュームを増やし、コストパフォーマンスの良さを演出する。
- 効果:大⇒ボリュームを増やすことで、顧客満足度向上、口コミによる新規顧客獲得などが期待できる。
- 実現可能性:中⇒食材費の増加、調理時間の増加、オペレーションの変更などが必要となる場合がある。
- 解決手段2:ランチに原価の低いドリンクをセットにすることで、トータルの支払いを抑えるようにする。
- 効果:中⇒ドリンクセットにすることで、顧客満足度向上や客単価向上などが期待できるが、ボリュームアップほどのインパクトはない可能性がある。
- 実現可能性:高⇒ドリンクを提供するオペレーションの追加が必要となるが、比較的容易に実現可能。
- 解決手段3:期間限定のクーポンを配り、通常よりも安くランチを楽しんでもらい、美味しさを伝える。
- 効果:大⇒新規顧客獲得、リピーター獲得などが期待できる。
- 実現可能性:高⇒クーポン作成、配布方法の検討などが必要となるが、比較的容易に実現可能。
このように解決手段を効果・実現可能性により評価することで、きちんとそのアイデアにより課題が解決すること(効果)、そのアイデアが実行可能であること(実現可能性)を説明することができます。この評価の軸も絶対的なものではないので、評価の軸を加えたり、重要視する観点の評価に重みづけしたり、ケースに応じたカスタマイズを試みましょう。
まとめ
以上、問題解決における基本的な考え方を紹介しました。大切なことは、問題をそのまま捉えるのではなく、問題を分解した上で、真の課題を捉えてアプローチすることです。真の課題にアプローチすることで、最適な解決策も導きやすくなります。
問題に取り組む際はどのような切り口で分解できそうか検討を行うところからスタートしましょう。
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